Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

映画『アリー/スター誕生』

渋い歌声にいきなり映画に引き込まれる。この声、こんな感じの曲。老いたロックスターの雰囲気。これがなんと、アメリカン・スナイパーの俳優だとは。こんなに歌が上手いとは。ガガが登場する前に、すっかり映画に入り込んでしまった。

すっぴんのガガはシャイな小娘に見えたし、自分の歌声の力を知る瞬間、少しずつ自身を深めて行く様子、それにともなってジャックとの関係性が変わっていく様子などがとてもよくわかった。最後に歌う歌は、深く心に染み渡った。シンプルな歌詞にあんなに思いが込められるものなんだと驚いた。2時間、一緒に旅をしてきた観客ではあるが、歌詞の一つ一つにいろんな思い出が刻み込まれていた。

ストーリーは観る前からわかっていたのに、こんなに心を揺すぶられるとは思わなかった。音楽映画は本当にいい。比べる意味などないのはわかっているけれど、私が感じたのは、ボヘミアン・ラプソディフレディ・マーキュリーの半生と彼が生み出した名曲の完璧なパッケージだったのに対し、このアリーは、大勢のスターの伝説や逸話を取り込み、俳優のいいところを生かし、一つ一つの曲にナラティヴを与えた映画、ということだ。どちらも本当に楽しめた映画だ。

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ほどけるとける

戦友の恋」のB面という位置づけの小説。前回の主人公、佐紀にかわって美和が主人公になって、前回で語られた物語を別の視点から描いている。前作では語られなかった心情などがわかってくる。また、前作ですでに読者が知っていることを、今回の主人公は知らない。おもしろいやり方だと思う。

 

ほどけるとける

ほどけるとける

 

 

キャラクターがしっかりと作られているから、こうしたことができるのだろう。

この人は本当に上手い。冒頭からいきなり引き込まれるし、そうかもね、という思いや気配がしっかりと立ち上がっている。とても楽しい

3月のライオン14

待望の3月のライオンが本日発売。マンガは絵が苦手なものがあって、なんでも読むわけではないが、この作家の絵もストーリーも好きだ。主人公は17歳のプロ棋士で、三人姉妹の家族と仲良くなり、いろんな出来事を経て、家族のような関係が生まれた。そんな彼らを取り巻く人が皆個性的で、プロ棋士の世界の話もびっくりするほどに深く、興味を引くし、高校生の生活もまたいまどきで、リアルでもある。

そっと遠くであたたかく見守っていたい登場人物たちだ。

 

3月のライオン 14 (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン 14 (ヤングアニマルコミックス)

 

 

みっつめのボールのようなことば。

この本は、糸井さんのことばを拾って、一度出版された本の中から、いくつものことばを抜粋して作られた本だ。シティボーイズのコントに「びんぶたジャム」というものがあって、ジャムの瓶の裏についたジャムはなぜか余計に美味しい気がするので、その瓶の裏のジャムをこそいで、瓶につめたジャムはとても美味しい! という話で、当然その瓶の裏にもジャムがつくわけで、こんどはそのジャムをこそいで、集めて・・・と延々と続くのだが、この本は、そんなびんぶたジャムの美味しさがつまっている、気がする。

「愛犬ブイヨンにとって、ボールは獲物であり、ボールは目的であり、ボールは命そのものだった。」この行を読んで、眼をつむった。うちの犬のことを思い出したからだ。他にも読み進めていく中で、ページをめくる手がとまることがなんどもある。なんなのだろう、この本は。本当にびんぶたジャムのような本だ。 

みっつめのボールのようなことば。 (ほぼ日文庫)

みっつめのボールのようなことば。 (ほぼ日文庫)

 

 

他人だったのに。

毎年一冊でる本で、これは12冊目。糸井さんがあちこちに書いた文章を、永田さんという人が集めて、並べて、並べ替えて、組んでみて、フォントなんかもあれこれやってみて、作った本。ことしも、いっぱいいい言葉に出会いました。年末のプレゼントですね、自分のために自分で買う本です。

以前に出た本も、定期的にぱらぱらと読んでいます。たぶん、こっちの心情が変わっていくから、いつも気になる言葉に出会いますが、それはそのときどきで違う言葉なんだと思います。装丁もとても好きです。

 

他人だったのに。

他人だったのに。

 

 

戦友の恋

書評家の北上次郎氏に勧められて、読んでみた。女性ふたりの友情の話なのだが、冒頭から、一人の女性はすでにこの世にいないことがわかる。残された主人公が、思い出を語る「戦友の恋」という短編を含めて六編の連作だ。主人公はマンガの原作者であり、すでに失われた友人はマンガの編集者。ともに戦い、作り上げてきたものが主人公の回想から浮かび上がってくるのだが、たしかに二人の関係は戦友といっていいものだ。

登場人物は誰もが個性的で、造形がしっかりとしていて、それでいて書きすぎていないし、うわついていない。上手な作家だ。北上氏の解説によれば、これはヒロイン友情小説というジャンルの作品であり、佳作が多いという。そして、この連作に共通して流れているのは、大切なものを失った痛みと悲しみと切なさ。そして大切な人がもういない世界で生き続けようとする強い意思と、こんちくしょうという不条理な思いを抱えながら、前に進もうとする力。その姿勢に勇気づけられる。

「消えてしまったと思った人がまだそこにいるのなら、まだそこにいるうちに会いたい」「喪うことに慣れてしまったからといって、喪う前に放棄してしまっていいわけではない」この行を読んだとき、切なさがこみ上げてきた。たくさん喪ってしまったからこそ、今の一日の重さに気づく。さよならだけが人生だと言った人がいたが、それは悲観だけでなく、そんな現実と向き合うために自分に言い聞かせる言葉なのではないか。そんな気がした。

 

 

もつれ

ポーランドを舞台に検察官シャツキが活躍するシリーズの一冊。邦訳は三作目が先に出たが、シリーズとしてはこちらが一作目になる。私立探偵でも刑事でもなく、検察官が捜査に乗り出すという設定は、最近では定番の一つだ。

心理セラピー参加者が死体で発見される。セラピーの影響で自殺したのか。それとも殺人事件か。捜査のプロセスで、ポーランドの歴史が関わってくる。主人公の検察官は仕事のストレスのはけ口を浮気相手に求めようとする。そして正義や正論ではないことを許さなければならなくなり、家族の命を心配し・・・。

現代のリアルは、切なく、身につまされながら、最後のページをめくることになる。スッキリした読後感はないが、そういうこともあるかもなと思う。ポーランドの話だし。ミステリー小説は(おそらく)進化し、読者もまた、さまざまな楽しみ方を学んでいく。そんなことをなぜかしみじみと思った。

 

もつれ (小学館文庫 ミ 3-3)

もつれ (小学館文庫 ミ 3-3)