Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

絶対安全剃刀

ラジオで「田辺のつる」の話が出て、気になってその短編が収めてある高野文子の作品集を買った。田辺つるさんは、少し物忘れがひどくなった82歳の女性なのだが、自分のことを子どもだと思っている。だから漫画の中のつるさんは5歳くらいの女の子だ。孫娘の人形をいつも借りたがるのだが、孫は貸したくない。その年頃の子なら、話の通じないお年寄りとはあんまり関わりたくない。誰だってそうだ。親戚の集まりなどで、そうした年寄りがいたときの気持ちを思いだした。自分が凄く小さかった時は、わけがわからなくて関わりたくなかったな。そんな気持ちのディテールを思い出した。

「アネサとオジ」という作品があって、タイトルでもうあれれと思った。久しぶりに聞いた言葉だ。姉と弟、という意味だ。実家を出てから初めて聞いたかもしれない。その次の作品「あぜみちロードにセクシーねえちゃん」の会話で、あっと思った。これは自分の育った町の話だ。調べて見ると、作者は同じ町の出身だった。懐かしさだけでなく、あの町の空気まで、再現されているようだ。

一番気になったのは、「ふとん」という作品だ。主人公の女の子は自分のお葬式を観音様と一緒に眺めている。夢の中の出来事を描いているようだ。映画のチゴイネルワイゼンのような、不思議できれいな世界の中に取り込まれてしまう。

奥付を見ると初版は昭和57年発行。読んだことがあったかも知れないが、リアルタイムでは読んでいない。人気があったことはよく知っている。この不思議さは癖になる。