Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

たちどまって考える

地元の人たちとのテニスサークルに久しぶりに参加した。おじさんのひとりが「大坂さんもお騒がせだね」とまるで天気の話をするみたいに、誰からも聞かれていないのにそう言い、幸いにも他の誰もそれに反応しなかったのでその話はそれで立ち消えになった。わたしは驚いた。BLMについてはそれぞれ意見があると思うが、大坂なおみ選手の行動は、少なくとも騒がせたとかいう観点で語られるべきことではない。私はびっくりしてしまって、その後のテニスの試合内容はぼろぼろだった。

その少し前に、女性の大学教授が「主張はわかるがテニスの場ですべきことではなかった」と発言した。いやいや、主張を何一つわかっていないではないか。他人事ではないから、自分と切り離せない問題だから、ひとりの人間として発言したのだ。世界の注目を集められる場だと知っていて。私も含めずっと日本で育った日本人には肌感覚ではわからないことに違いない。でも、当事者の立場に立って考えてみようともしないで、海外のニュースなどで背景を調べてみることもしないで自分の感覚で反応してしまうと、大きく間違うこともあるということに無自覚なのは、人間として恥ずかしいことだと思う。

この本はヤマザキマリさんが、COVID-19のせいで日本から出られなくなっているこの時期に書いた本で、いろいろな点について自省しながら読んでいる。上記のことは、ママ友のひとりが、デモに参加したということでLINEグループから外された、という話を紹介していた箇所を読んで、思い出したことだ。ヤマザキさん自身も「漫画家が何を言っているのだ」という言い方をされこともあるのだという。

もちろんこの本にはパンデミックに関する話が多く、今回のパンデミックで「今まで表に出てこなかったものが剥き出しになっている」と書いている。私は、なにごとにも優先順位づけをさせられるようになったと思っている。リスクを負ってまで会いたい人は誰なのか、わざわざ食事に行くとすればそれはどの店なのか。

「社会という群れのなかでなければ生きられず、知恵の発達した生き物としての傲りで膨れ上がってきた人類。パンデミックは、そんな我々にいったんたちどまって学習する機会を与えてくれたのだと、私は捉えています」

その言葉が胸にしみる。

たちどまって考える (中公新書ラクレ (699))

たちどまって考える (中公新書ラクレ (699))