Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

伯爵夫人

昨年の話題図書をようやく読んだ。7月に貸出申請をしてから、ようやく年末に私の順番が回ってきた。内容はエロ小説といってしまえば、それっきりだが、耽美的な文章による日本語の芸術作品といったところか。
伯爵夫人は、欧羅巴や上海で暮らしたことの妙齢のご婦人。高級娼婦だったという自身の物語を語る時、卑猥な単語を連発する。語られる話は、嘘か誠かわからない。荒唐無稽な世界と退廃的でひょっとしたらそんなこともあるかもしれない、という線を行き来する。だが、その話が本当かどうかというのは、この本の主眼ではない。明治の文豪たちの文学的世界へのオマージュ、そして現代の文壇へのアンチテーゼといったところかもしれない。文学でしか表現できないことを描いた作品。新しいスタイルなどといつたら、作家に笑われることだろう。

伯爵夫人

伯爵夫人

禁忌

主人公はある日、女性誘拐容疑で逮捕され、刑事の脅しにより犯行を自供し、裁判にかけられることになる。マスコミは、有名写真家による猟奇的殺人と書きたてるが、被害者は見当たらず決定的な証拠もない。監禁されているという女性から警察へかかってきた電話が発端となり、現場とされるアトリエで写真家が逮捕された。しかし、女性の姿はないどころか、それが誰なのかさえもわかっていない。ミステリータッチの作品だが、犯人探しやトリック暴きの小説ではない。前半で語られる主人公の生い立ちと、悪とは何かといった問いかけが読後に残る。すっきりとした解釈はできない。読者がそれぞれ、読書中や読後に感じた思いをしばらく保ちつづけることがこの本の特徴かもしれない。不思議な味わいの本だ。もう一度読んだらきっとまた、違う感想を持つだろう。

禁忌

禁忌