伊集院静の代表作ともいえる短編集だ。どの話も昭和の風景が描かれている。私が中学生や高校生の頃、浴びるように読み、そしてすっかり読まなくなった、私小説の系統だ。久しぶりにこうした日本の小説を読んだが、同時代に生きる作家ゆえに、その人生をニュースなどで知っているから、書かれた小説の行間までも、そして目を伏せた表情まで思い出しながらストーリーを追ってしまう。
太宰治の小説に過敏に反応したのは、十代の感受性であった。その人の生きてきた道ではなかった、太宰個人の苦悩は、後で知ることになる。それでも、その世界にとどまっていては、自分の生きる道が見いだせなかったから、私小説は読まなくなった。
でも、それだけではないものをこの本に感じた。途中、ああ、またか、と苦手意識を感じたとこもあるが、それでも先へと読み進めたのは、そうしたこともまた、その人の現実なのだと思ったからか。
文章のうまさは学ぶところが多い。時々、手にとればいい。私にとってはそんな作家だ。
- 作者: 伊集院静,久世光彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/09/03
- メディア: 文庫
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