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値上げのためのマーケティング戦略

マーケティングの本なのだが、価格設定を中心に書かれているのが特徴的だ。日本の企業は価格決めが下手だという指摘にはいきなり納得する。牛丼やさんや居酒屋の低価格競争のおかげで、消費者としては大変助かっているのだが、提供する側は儲けが少なく、苦労している。そうしたチェーン店だけではなく、多くの飲食店が儲けが少ないなかでやりくりしていたことが、このコロナ禍の中で明らかになった。閉店、倒産が相次いだ。とはいえ、350円の牛丼を明日から700円にします、と言われたら、その店から足が遠のく。安い価格で食事できることに慣れきっているからだ。

高い価格がいいとは言わないが適切な価格を設定し、その価値を認める人たちに購入してもらう。それは夢のような話だろうか。いや、AppleNikeBMWなとばそれができている。類似品よりも高い価格を払うことさえも、満足感になっている。こうした幸せな関係はブランドとファンという構造になっている。いろんな商品やサービスがこうした幸せな関係を築こうと「ブランディング」に力を入れている。それは正しいマーケティングだが、どんな商品でもブランドになれるわけではない。

俯瞰で見れば同じ商品群の中で、ブランドになるものとそうでないものがある。その一つが書籍だ。好きな作家の新刊は、ハードカバーで3000円を超えていても買うのに、いくら薦められてもピンとこない本に2000円を出すかどうか悩む。それでも書籍は安くてありがたいものだとわかっているが、自分との関わりがあまり見いだせない本には手を伸ばしにくい。しかし、勉強や仕事に必要な本は価格を気にせずに買い集める。それは資料と名前を変えてしまうからか。

この本の最後の章で、欧米企業の「プライシングマネジャー」の存在について触れている。日本企業の商品の価格は誰が決めているのか不透明なことが多いが、科学的に、戦略的に価格を決める職種があるのは、やはり価格付けの重要性を知っているからだ。日本企業には他にもCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)がほとんどいないという事実も、マーケティング的思考があまり浸透していないということだろう。もちろん、欧米の役職を取り入れればいいのに、ということではなくて、市場をしっかりと考えられているかどうかということだ。近江商人の「三方よし」の考え方は最新のマーケティング理論をずっと先取りしている。

値上げのためのマーケティング戦略

値上げのためのマーケティング戦略

  • 作者:菅野 誠二
  • 発売日: 2014/02/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)