Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

体の贈り物

私は今日もリックの部屋に出かけていく。いつも何か欲しいものはないかと電話で聞いてから出かけていく。今日は何もいらないから手ぶらで早く来て、という。急いで部屋につくと、彼はうずくまって動けなくなっていた。すでに電話をして医者に連れて行ってもらう手配をしたという。迎えに来たマーガレットにリックを託して、私は部屋の掃除を始めた。以前リックはバリーと一緒に暮らしていたが、彼が死に、体が思うように動かなくなってから、私がここへ来るようになったのだ。

この本は後書きも表紙の裏に書いてある文章も読まずに、最初の短編を読んでいたら、最初は彼女なのかと思って読みすすむとそうではないことがわかってくる。「私」は、エド、コーニー、カーロスの元へも同じように通う。彼らは程度の差こそあれ、身の回りの世話を私に頼んでいるのだ。そして彼らは、遅かれ早かれアパートを出てホスピスへ行くことになる。彼らはエイズにかかっているから。

淡々と事実だけを書いていくなかに、ささやかな愛情や小さな贈り物が浮かび上がる。私はビジネスライクに接しているわけではない。何をしてほしいのか、何をしてほしくないのかがわかるからこそ、感情の起伏を抑えて淡々とさまざまなことをこなしていく。とはいえ、ジョークだって口にするし、涙を隠せないときだってある。いつも愛情一杯に彼らと接しているからだ。ボロボロになってしまうのではないだろうかと心配になる。この本を読み終えてカズオ・イシグロの「私を離さないで」を思い出した。すぐにも愛憎たっぷりの話になりそうな題材を淡々と書き切ることで、小さな贈り物のありがたさを浮かび上がらせている。

体の贈り物 (新潮文庫)

体の贈り物 (新潮文庫)