Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

ひみつのしつもん

翻訳家、岸本佐知子さんのエッセイ。この人の、ちょっと不思議な角度に突き進むものの見方とそれをあますところなく文章にする力には本当に感服する。こんな人がいるんだな、と感心する。題材はもしかしたら、私も同じような気づきをする事柄かもしれないが、日常の何かを起点にした、そうした発見をどこまでも、あらぬ方向へと広げて行く。読後感は、うーむとしかいえない。狐につままれるというのはこういうことか。

一行目からいきなり、ぐいっと異世界へ連れて行かれる。星新一ショートショートのように。日常生活のどこにでも、ちいさなささくれのようなものが、なぜかこの人の想像力を大いに刺激し、ものすごい勢いで妄想の世界へ向かって暴走する。妄想だとわかっているのに、緻密な言葉で描写されたリアルな世界の立て付けに感心していると、セットは崩れ、舞台は暗転。またもまんまと騙されたと、悔しいけれど嬉しくなる。なんなんだ、この作家は!と思わせておいて、本業は翻訳家なのだ。どこまで小馬鹿にするのか!と思いつつにやにやしてしまう。

言葉の選び方、適切な運用能力がはんぱない。英語と日本語の間をいったりきたりする翻訳家であるがゆえに鍛えられたものなのだろうけれど、日常のちいさなほころびを逃さず、大事にしてしまう妄想力は、幼少の時から培ってきたものなのだろう。いやはや。なんとも楽しい本だ。

ひみつのしつもん (単行本)

ひみつのしつもん (単行本)