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血の収穫

久しぶりにハードボイルド小説を読んだ。しかも名作中の名作の一つで、学生の頃読んだ本の新訳だ。発売と同時に買ってずっと寝かせていた本だったが、なかなか読む時間を作れなかったのだけど、風邪を引いて寝込んだために、この本を読む時間ができた。

ダシール・ハメットの長編は少なく、あまり得意ではないのかもしれない。この本でもかなり強引に展開する部分もあるのだが、ぐいぐい引っ張っていく乾いた文体と派手な事件がページをめくる手を止めさせない。

ポイズンヴィルと呼ばれる町を浄化したいという、新聞社の社主からの依頼を受け、コンチネンタル探偵社の捜査員オプがやってくる。彼が町に着いてすぐ、依頼主は殺されてしまう。そこであきらめてしまっては、ハードボイルドの主人公にはなれない。仕事として受けた以上、自分なりのやり方で仕事を遂行することにする。ギャングたちは互いの利益のために、裏で手を握っている。オプはギャングたちに互いにつぶし合いをさせて、町の大掃除をしようと決心する。

そして、この町の主立った人物はギャングも警官も女も弁護士も命を落とし、誰も得をしないまま荒涼とした町だけが残った。

ギャングが撃った弾の数、死んだ人間の数、動員された警官の数、焼け落ちた建物の数。スケールの大きさに驚愕する。禁酒法時代のアメリカの読者にとって、ギャングの抗争も拳銃騒ぎも身近なことだったろうから、ここまでの規模を描かなければ、小説を読む価値などなかったのだろうか。荒唐無稽という人もいるだろうが、それはハードボイルド小説にとって褒め言葉に違いない。