Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

講演会 宇宙についてのあれこれ

今回は本でも映画の話でもない。知り合いの会社で、宇宙業界の人が話しに来てくれるというので、参加させてもらった。そのときのメモだ。

講師は小林さんという女性で、ベストセラーマンガ「宇宙兄弟」の監修もされた方(巻末にお名前が載っていて、マンガの中にも描かれている)。以前、JAXAで働いていたが、今はJAXAからスピンアウトした民間の会社「有人宇宙システム」に勤めている。この会社はISSに向かう宇宙飛行士の滞在支援の他に、スペースXやボーイング製ロケットの安全審査などをしているそうだ。彼女は日本人宇宙飛行士のサポートを担当している。

今はスペースシャトルのミッションがないこともあり、NASAではなくロシアの宇宙ステーションに行くことが多いそうだ。カザフスタンのバイコヌールにあり、広大な敷地の中に、発射台が50カ所あって、人工衛星などのロケットがかなりの頻度で打ち上げられているという。カザフスタンの気温は、-50℃から+50℃まで変動する厳しい気候だ。それでも、ここに発射基地を置いているのは、雨がほとんど降らないため、365日ほぼ毎日打ち上げができるからだという。あまりに頻繁にロシアに行っているために、時々アメリカに行くことになると、空港の税関で必ず個室に連れて行かれるそうだ。

ロシアのロケットは、ソユーズというV2ロケット。過去の話だと思っていたら、ロシアはずっと同じシステムのロケットを使っているのだという。1800回打ち上げられており、そのたびにバグの修正をしてきたので、いわゆる「枯れたシステム」で故障がなく盤石だそうだ。なぜこんなに長持ちしているかというと、V2ロケットを複数台連ねて飛ばす、クラスターロケットという技術を作りだしたからで、月やISSに行くには充分な推進力が得られている。一回の打ち上げは約50億円かかるらしい。

ロケット発射の際には、発射台まで、なんと鉄道で、横倒しにして運ばれるのだという。ロケットという超精密機械を横倒しにするなどということは、NASAの人間は思いもしないそうだ。枯れたシステムの信頼性がなせる業なのだろう。そして、ロケットを先導するように犬が歩いてくれるのだという。爆弾探知犬なのだそうだ。バイコヌールの基地は、あのガガーリンが打ち上げられた場所で、その頃からの施設もまだ使われてるという。近くに寄って見るとかなり老朽化が進んでいるのがわかるそうだ。そして、この基地から打ち上げられる宇宙飛行士は、今もガガーリンが行ったのと同じ儀式を行うのだという。髪を短くするのもそう。宇宙飛行士は体重制限もあり、私物は1.5キロまで持ち込めるそうだ。

宇宙飛行士のミッションは分刻みで予定が組まれている。ISSは地球を90分で一周するため一日16回、日の出を迎える。規則正しい生活をするために、GMTを基準として24時間のタイムラインで生活するのだという。基本は一日3食。忙しくて昼食が食べられないことも多いという。ロシアの宇宙飛行士は缶詰の食料が多いそうだ。持ち込みが許可された私物として、好きな食べ物(もちろん宇宙食)を持ち込む宇宙飛行士も多いそうで、日本製の宇宙食、特にカレーはおいしいと評判らしい。ISSでのミッションの際に他の宇宙飛行士になにか頼み事をするときに、この食べ物が効果的だそうで、日本食は有利な取引(!?)の対照になるらしい。

ミッションがいくら忙しいといっても、夜間と週末は休みになる。その時間を利用して写真を撮る人も多いという。しかし、ISSは高速で飛んでいる。ISSから地球を撮影するには、流し撮りの技術が求められる。それでも、上手に写真を撮る宇宙飛行士がいるそうだ。宇宙飛行士ではないが、NASA専属のカメラマン、ビル・インガルスはロケット発射のシーンなどを数多く手がけている。

宇宙飛行士が船外活動をするために、宇宙服を着てISSから宇宙空間に出ると、落ちていく感覚になる人が、かなりの割合でいるという。そしてそれは、地球での訓練時には判明せず、宇宙空間に出た瞬間に初めてわかる。落ちていく感覚になる宇宙飛行士の場合は、常に不安になりながら船外作業をすることになるので、かなり辛いそうだ。宇宙服は、小さな宇宙船なのだという。一着何億円。ヘルメットのバイザーは金でコーティングされているそうだ。

宇宙ステーションで出たゴミは、どうするのだろうか。答えは、ISSに物資を運んできた無人の補給船が帰還するときにゴミを詰め込むのだそうだ。そして、補給船は大気圏で燃えつきる。地球に帰還することはない。

それから、小林さんの失敗談を。あるとき、自分の携帯にアメリカの電話番号から電話がかかってきた。しかし、末尾になんだがおかしな数字があるということで、ヤバい電話だと思って無視したのだという。ところがそれは、ISSに滞在中の若田船長からの電話だったというのだ! ISSの電話は、アメリカ国内の局番らしい。それからしばらく彼女は、若田さんからの電話を無視したスタッフとして有名になったらしい。