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井上陽水英訳詩集

井上陽水の歌は、声の良さと単語の連なりの耳障りの良さに翻弄されて、雰囲気を楽しむものだと長い間思ってきた。本人も、かなり適当です、などと言っていたものだから、その言葉を真に受けてしまっていた。うかつだった。

キャンベルさんが訳されたと聞いて、ずっと読みたかった本だ。日本人が聞いても、ひとつの意味に集約することができない、あの歌詞をどのように英訳するのか、そもそもそんなことが出来るのか。実際に意味がとれない、あるいは何通りかに解釈できるところは、井上陽水本人に確認している。そして、問いかけられたことによって、陽水自身も、曖昧なままにしていたことを、あるいはどちらとも取れることを、再確認することになる。できあがった詞は見事な出来映えだ。もちろん、翻訳できない要素があったと認めているが、英訳と元の歌詞を見比べて、このように訳すのかと、感心する。陽水の歌詞とあの声と曲調が紡ぎ出した物語をキャンベルさんの頭の中で描いた上で、それを歌の歌詞として再現できる英語を探す。私は翻訳の勉強をしているが、これほど翻訳の技術や深みを感じることはなかった。井上陽水の歌を浴びるほど聴いてきたから、深いところで理解できたのだろう。この本を読んだ後、陽水の歌を久しぶりに聴いて、やはりいいなあと実感した。

キャンベルさんは、陽水の歌を英訳しようと思ったのは、病床でのことだったという。冒頭の自分語りのパートに、キャンベルさんの青春時代の話がすこし書かれていて、それの話もとても楽しめた。

 

井上陽水英訳詞集

井上陽水英訳詞集