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米原万里の「愛の法則」

米原さんが亡くなられたのは2006年。もうそんなに経つのか。希有の通訳者であり、博識の文章家だった。この本は、米原さんの講演を採録したものだが、著書に描かれたことのエッセンスがつまっている。

国を持たない民族にとっては、言葉と文化が強くなり、アイデンティティを築く中心になるために、時に排他的になる。一方、日本は国土があり、国境が自然によってできているから、国土意識が薄くなり、他の国や他の文化と触れあうことは非日常的になる。だから、平気で日本語を捨てて、英語や他の言語を国語にしようという意見が何度もわき起こる。不見識でしかないというのに。また、アメリカ人の言うグローバリゼーションは自分たちの論理や価値観を他の国に押しつけよとすることであり、日本人の言う国際化は海外の基準を積極的に取り込もうという、正反対のことなのだと教えてくれる。

言語を分類する方法の一つに、孤立語膠着語屈折語という3分する方法があって、孤立語とは語順が重要な言葉で、英語や中国語がそれにあたり、膠着語とは助詞が膠(にかわ)となって重要な役割を果たす、日本語、ハンガリー語トルコ語などであり、屈折語は言葉の役割が語頭や語尾の変化や言葉の変化などの屈折によって決まる、フランス語、ロシア語がこれにあたる。そして言語に対して柔軟な感覚を育てるにはこの3つの言語を学ぶといいという。日本人は、英語以外にロシア語かフランス語を学ぶといいわけだ。

通訳は、言葉にとらわれず、元の言語で表現しようとしている概念をよみとって、それを通訳するんだ、という指摘は翻訳と同じだととても納得した。

米原さんの本は以前何冊か読んでいたので、まだ読んでいない本をよみたくなった。

米原万里の「愛の法則」 (集英社新書 406F)

米原万里の「愛の法則」 (集英社新書 406F)