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幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと

数多くの死を見つめてきた若い外科医が、死と向き合うことについて真摯に、素直に書いた本。医者は人間の死を、生と死の境をたくさん見てきている。なのに、医者が死について語ることはあまりないように思う。縁起でもない、と言われて封印されてしまうのだろうし、死とは何かという人間の根源を考え始めたら、手術ができなくなるかもしれない。それでも、この本の著者のように、医者はみな、死についての自分の考えを持っているにちがいない。

死は突然やってくる。予定通りに死ねる人はいない。もっと考えていいことなのに、考える機会はあまりない。身内や友人や飼い犬が死んだとき、さまざまな思いが心をよぎるが、そのまま自分の死を考えることにはつながっていない。死という事象についてゆっくりと考えるのは決して悪いことではないはずだ。しかし、日本は死の影を忌み嫌う。表通りをピカピカに磨いて、死を思わせるものを出来るだけ排除する。かつては大家族で暮らしていたから、子供のころに祖父母などの死を体験できたが、核家族になり、親戚づきあいも無くなってくると、死を身近にかんじるのは、大人になってからで、滅多にないことのように感じてしまう。

この本では、ある日突然、死を宣告される現代人は大きなショックを受けることになる。それは「自分の」死について考えたことがないからだという。死を考えることで幸せに死ぬこと、そして幸せに生きることにつなげるべきだという。そうかもしれない。そして「いつ死んでも後悔するように生きる」と言う。全力で生きていれば、必ずこころざし半ばで死ぬことになるということだ。とても納得できる。自分の死について考えることは、自分の生き方について考えることであり、自分の頭を使って生きろということだ。みんながそうだから、というのをやめることだ。