Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

村上春樹翻訳ほとんど全仕事

村上春樹が翻訳した本は何冊も読んでいたけれど、どこかで作家村上春樹の余技のように思っていたところがあって、作家はやはり文章がうまいなあ、といった平凡な感想しか持っていなかった。この本には翻訳家としての村上春樹の成り立ち方が描かれている。高校時代からペーパーバックを読んでいたこと、受験勉強の英文和訳で、翻訳の面白さに気づいていたこと、実際36年間翻訳をしてきて、70冊以上の訳書があることを考えれば、翻訳家としても十分に一流なのだ。翻訳という行為が好き、というのは他の翻訳家と共通することだけれど、一番違うのは好きな本しか翻訳しないし、締切りに追われていないということ。これは売れっ子作家だからできることだ。そして、原書を書いた作家と親交があることも、いわゆる翻訳家とは違うかもしれない。こんなに外国の作家とあって話しているのは、柴田元幸さんとか何人もいないんじゃないかな。原書に対して、オリジナルテキストを大切にしながらも、自分はこう読んだということを日本語にしていくというのは、まさに翻訳家の理想だ。とても勉強になった。