Life and Pages

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高い窓

この小説を読むのは何度めだろう。チャンドラーの小説はどれも大好きで、大学生の頃はペーパーバックも読んだ。あまりにも台詞が素晴らしかったので、原作の英語ではなんと言っているのか知りたかったからだ。今回の村上春樹訳もとても良かった。登場人物それぞれを愛情を持って見守ることができた。
私立探偵フィリップ・マーロウは、とある金持ちの老婦人に仕事を依頼されて会いに行くところから始まる。だいたい、仕事を依頼したいというのに、相手を呼びつけるし、本人に会う前に秘書から、あなたという人物の評価を知るために照会先を知らせろ、といきなり言われる。ここでもう、やーめた、と言ってもいいくらい失礼な態度を取られるが、われらがマーロウはそんな些細なことでは腹を立てない。息子の嫁が高価な金貨を持ち出して家出したので、居場所をつきとめてくれ、と依頼するが、詳しいことは一切明かさない。だが探偵は、そんなことは百も承知だ。自分のやり方で、事実を一つひとつ掘り起こし、頭を働かせてそれらを撚り合わせ、真実を知り、もっとも良い決着のつけかたを探る。警察には警察のルールがあり、裏稼業の連中にも納得のいく収め方があり、金持ちには金持ちの守るべきものがある。それらはたぶん正義というものとは少し違っているが、もつれた糸を解きほぐして、明日もまた生きていくための力のようなものを生み出している。密室の謎を解くことが主眼のの小説よりも、世間の風通しを良くするためにあちこちに物事を移動させて風通しを良くする、こうした小説の方が私は好きだ。

高い窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

高い窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫)