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八百万の死にざま

ミステリーや探偵小説に惹かれるのはなぜだろうかと考えていた。この小説の主人公は、NY市警の元刑事で、誤って子供を死なせてしまったことがトラウマとなり、アル中になり警察も辞めてしまった。今は、探偵業の合間にAAの集会に通う。今回のヤマは、簡単で誰もがHappyになる仕事のはずだった。だが、依頼人は惨殺され、主人公は真相究明に乗り出す。
金のためにするなら、割の合わない仕事だ。リスクを計算したら、顔を突っ込むはずのない仕事でもある。でも、自分が関わった人に何が起こったのか究明せずにはいられない人種がいるのだ。私立探偵だろうと、刑事だろうと立場はどちらでもいい。自分の身を危険にさらしても、自分が納得いくまで真実を知ろうとする。私は、そしてミステリーファンはそこに惹かれるのだと思う。損得とは違う物差しを持って、生身を晒し、傷つきながらも魂を高く掲げ続ける人間に惹かれるのだと思う。
この本の魅力はまた、NYという街の魅力だ。アメリカン・ドリーム、教会、バー、プロスポーツ、高級マンション。そして、娼婦、移民、酔っ払い、拳銃。プラスにもマイナスにも振れ幅の大きい街だからこそ、成功者は巨万の富を得て、敗者はやすやすと命を落とす。
そして、アル中になる人間のことはわからないと思っていたが、アルコールに救われたことは確かにあったなと思い出した。
信じる力が強い。この主人公に限らず、何かを成し遂げる人に共通の特長なのだと思った。

八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫)

八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫)